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11
夜霧の館の骨董商
深い霧に包まれた軽井沢の原生林に佇む、築百二十年のヴィクトリア調洋館「霧嶺館」。宝飾・美術鑑定士の藤原千佳と古文書キュレーターの九条セレナは、館に眠る膨大なコレクションの整理を引き受ける。冷徹な競売人・神崎颯真や時計修復師・一条礼司ら、確かな腕と個性を誇る八人の男たちに囲まれながら、二人の女性は鑑定台と競売の舞台裏で、旧物に封じられた愛憎と真実を解き明かしていく。
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12
星野高原の森のアトリエ
白樺と唐松が茂る信州・星野高原の澄んだ星空の下、廃校となった木造分校を再生した創作共同体「森の音」。木構建築家の杉本蓮司と鍛造金工師の風間航希が工房の運営を支える。二人を取り巻くのは、陶芸家・朝倉涼香、草木染め作家・水原彩音、薪窯パン職人・八木紬ら、ひたむきに自然と向き合う八人の女性表現者たち。季節の風と薪ストーブの温もりに包まれながら、手仕事の交歓と穏やかな絆が育まれていく。
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01
頁と頁のあいだの沈黙
横浜・山手の「時光筆跡」は、匿名の文章の向こうにいる人を探し出す場所ではない。水瀬琴音がカウンターを守り、編集者の結城直樹が仕事を持って訪れる。二人とも、他人の私生活が売り物にされた職場を去った過去がある。八月、青い手帳が戻り、盗撮騒ぎで常連たちは店の約束を実際に守ることになった。今は健太に返事が届き、彩香と娘の親権をめぐる争いにも結果が出た。円は琴音にカウンターを託した。夏の集いが終わった洋館に、新しい責任、言葉になる前の親しさ、守ってよい沈黙が残っている。
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02
水染みが広がる前に
東京の郊外にある月見荘は、木村千鶴が夫の修一と買った古い家だ。夫を亡くしたあと、千鶴は二階を貸間に変えた。仕事を立て直す人、結婚生活を離れた人、技を磨く人、海を渡ってきた人が、ここに暮らすようになる。装丁家の水野空が越してきたのは二〇二五年の秋。隣人だった救急救命士の高橋圭とは、互いのこれからを考える約束を交わした。水漏れや風雨をしのぐ作業、夏の終わりの庭での食事を通して、住人たちは少しずつ近づいた。暑さが和らいでも、花の教室や学校、夜勤や締切は続く。家の行く先はまだ決まらない。それでも、ここで重ねた日々は、簡単には手放せなくなっていた。
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03
門の閂に降る雨音
京都郊外の雨宿は、久我家の古い屋敷だ。今は、疲れた創作者や夜勤の働き手、研究者も暮らしている。管理人の久我涼は画材を蔵にしまい、修復師の篠原楓は工具箱を携えて休養に来た。雨漏りをしのぎ、本を直し、古い家族宛ての手紙を探す日々に、二人は近づいていく。東の棟の琴の音も、台所に現れる少年の影も、ただ怖いだけの噂ではなくなった。夏の終わり、住み続ける人、再び筆を執る人、撮る前に話を聞こうとする人がいる。扉の向こうの過去を誰もすべては知らない。それでも、ここにいる人々は、もう単なる通りすがりではなかった。
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Ⅱ
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